「自分の子どもがなかなか結婚しなくて心配」「子どもの交際相手が、自分が考える理想のパートナー像と違う」――。独身の子を持つ親御さんの中には、このような悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。こうした悩みには、まずは子ども世代が持つ価値観を知り、自分たちの世代との違いを認識することが、解決のヒントになるかもしれません。そこで、内閣府少子化対策関連有識者委員で、株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部の天野馨南子准主任研究員に、客観的なデータから読み取れる、子ども世代と親世代の結婚観の違いについて伺いました。
国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」によると、18~34歳の未婚者のうち、男性の86%、女性の89%が「いずれ結婚するつもり」と回答しています。しかもこの割合は、1980年代からほぼ変わらずに推移しているといいます。要するに、30年前も今も変わらず、18~34歳の未婚男女の約9割がいずれ結婚しようと考えているのです。
図:18~34歳 一生を通じてみて「いずれ結婚するつもり」回答割合
一方、50歳の男女のうち結婚歴がない人の割合は、男性で24.2%、女性で14.9%といずれも過去最高を記録しています(2015年国勢調査)。1980年代まではほぼ横ばいだったこの数値は、1990年代から右肩上がりに上昇しています。
図:日本における男女別50歳時未婚率の推移
この結果に対して「多くの若い男女がいずれ結婚しようと考えているのに、未婚率が高いのはなぜか」という疑問を持つのではないかと思います。その原因を探っていきましょう。
親子の関係についての意識と実態に関する1万人調査(株式会社明治安田生活福祉研究所・株式会社きんざい)によると、子ども世代の約半数は、20代後半までに結婚したいと考えています。
図:20代後半までに結婚したい割合(%)
一方、出会ってから結婚にいたるまでの交際期間の平均は、4.34年(第15回出生動向基本調査)です。20代後半での結婚を希望するなら、20代前半から結婚に向けた出会いや交際を意識していく必要があるのではと思わせる数字です。
さて、親世代の多くが20代だった30年前、およそ1980年の男女の平均初婚年齢は、男性が28歳、女性が25歳でした。当時は男女とも高卒者の割合が非常に高かったため、当時の平均初婚年齢から考えると、「学校(高校)」を卒業してから10年前後(すなわち20代後半)での結婚が一般的であり、高卒が多数派の親世代にとっては「結婚は就職後10年前後で」「学校卒業後すぐに結婚を意識するのはまだ早い」という考えが根強く残っていると考えられます。
図:1980年と2010年の結婚に関わる社会情勢の変化
しかし子ども世代は、今や男女とも半数近くが大学に進学しています(2010年学校基本調査)。大卒者の場合、「卒業後すぐ」にあたるのが20代前半になります。親世代の「結婚は就職後10年前後で」という価値観をここに持ち込むと、必然的に「結婚は30代前半あたりでいい(結婚できる)」という感覚となります。
「20代前半で結婚を意識するのは早すぎるのではないかと子ども世代が感じているのは、親世代の就労感の影響を受けている可能性があります」と天野さんは指摘します。実際、子ども世代が結婚したいと思う時期と、親世代が子どもに結婚してほしいと考える時期にはズレがあり、親世代のほうが遅い時期の結婚を望む傾向があるのです。
図:20代後半までに結婚したい(親:してほしい)割合比較表(%)
今の18~24歳という年齢は、同世代の異性がキャンパスなど周囲にたくさんいるうえ、その9割以上が未婚という、未婚の異性と出会いやすい状況にあります。出会いの機会が豊富にあるにもかかわらず「まだ若いから結婚は30歳前後で」と先送りしていると、卒業後、就職などで環境が変わり、周囲から同年代の独身者が急激に減ってしまうことになります。ほぼ同じ年齢が集まっている学生時代とは大きく異なり、就業先では同年代の独身異性と出会う機会が大幅に減ってしまうことが当たり前のことなのです。
実際、第15回出生動向基本調査では、まだ結婚しない理由として、18歳から24歳では男女とも「まだ若すぎる」「仕事(学業)に打ち込みたい」が上位にきているのに対し、25歳以上になると男女とも「適当な相手にめぐり合わない」がほかの回答を制して圧倒的なトップ回答となっています。
図:日本における18~34歳の男女の「独身にとどまっている理由」(3つまで回答・%)
もし何歳までに結婚したい、という希望があるのなら、そのゴールに照準を定めた活動をスタートすることが重要です。そこまでの明確な希望がなくても、パートナー探しは若いほど機会が多いことだけはおさえておく必要があるでしょう。年齢が上がるほど既婚者が増え、パートーナー候補となる人は減っていく、ということを意外と認識していない人は多いものです。
親世代は結婚や出会いを意識する子どもたちに対し、必要以上に「まだ早い」という意識を持たせないよう注意し、安心してパートナー探しができるようサポートしていきたいものです。
子どもにパートナーとなる人がいても、それが親の理想通りの相手とは限りません。例えば、親世代の中には「男性のほうが女性より年齢が上である方が望ましい」といった考え方を持つ人も少なくないようです。
しかし、実際に結婚しているカップルには、こうした親世代とは異なる価値観でパートナー選びをする人も多くいます。2015年に婚姻届を提出した初婚夫婦の年齢差をみると、4分の1にあたる24%のカップルにおいて、妻のほうが年上でした。また、夫が年上であるケースは55%と確かに過半数を占めているものの、4組に1組は女性が年上で、同じ年齢同士の婚姻件数よりも多いため、年上妻はもう珍しいケースとはいえない時代となっているのです。
図:2015年に婚姻届を提出した初婚夫婦の年齢差状況
ほかにも「男性が大黒柱であるべき」とか「学歴は、男性の方が高い方がよい」といった、過去の価値観に基づいたアドバイスが、時として「親ブロック」になってしまうことがあります。
「大人になった子どもに対して親が本当に応援できることがあるとすれば、それは、親以外の誰かを人生の支えとして求める子どもの気持ちと行動を見守り、阻害しないことです」と天野さんは言います。
いつ、だれと、どのような家庭を築いていくかは、子ども本人が決めることです。親が無意識のうちに令和時代の結婚の実態にはマッチしにくい「親が考える子どもにとっての幸せ」を子どもの幸せと捉えて押しつけることによって、子どもの選択肢を狭めるような言動をしたり、パートナーを見つける意欲を削いでしまったりすることのないよう、子どもの意思を尊重しながら見守っていきたいものです。
見守る、とはどういうことでしょうか。親は子どもに対してどのようなサポートができるのでしょうか?親子の関係についての意識と実態(明治安田生活福祉研究所)によると、約4割の親が子どもの就職活動に関与したと回答しており、婚活に至っては約半数が関与したいと回答しています。
図:子どもの就職活動に関与した親の割合
図:子どもの「婚活」に関与したい親の割合
これに対し、「親が子どもの就職・結婚活動を管理・干渉する、アドバイスするという能動的なサポートだけではなく、子どもの判断力を信じる、また結果に対する自己責任感を醸成するといった、「自立を邪魔しない」という受動的なサポートもあります」と天野さんは言います。
親はいくつになっても子どものことを心配するものですが、成人した後も口出しを続けていては子どもの自立や判断の機会を損ねてしまうおそれもあります。子ども自身が自らの判断で人生を切り開く選択ができるよう、あえて距離を置いて見守ることも重要です。
また、子どもに生涯を共に過ごすパートナーを見つけてほしいと願うなら、親がその役割を代替しないよう注意する必要があるでしょう。例えば、同居している場合は、子どもの世話を焼きすぎていないか見直したり、その子に合った方法で自立を促したりするなどの選択肢を検討する価値がありそうです。
ひとりの母親として私も皆さんと同じく、子どもの結婚に関して不安は沢山あります。ただ、このコラムをお読みくださった皆様に伝えたいことは、「同じ年齢ゾーンではデータ上、同数の男女がいます。ですので、子どもが結婚を望み、行動を起こしさえすれば、結婚はできます!!」ということです。ただしこれには、大切な条件が1つだけ、あります。
「男性の方が年上で、学歴が高い方がよい」、「男性が大黒柱であるべき」、といった、統計的にみて今では当たり前ではない条件(といっても、親御さんが若かったころは当たり前だった条件)を、「ふつうは」「みんなは」という思い込みでお子さんやお相手候補に示してしまわないこと。知らず知らずのうちに、または良かれと思って、お子さんの結婚に「親ブロック」をかけてしまわないで欲しいのです。
もし、それで不安な気持ちになってしまったら、どうか次の言葉を思い出してみてください。「あなたが育った家庭は、これからあなたが持つことになる家庭ほどは大切ではありません」リング・ラードナー(19-20世紀 米国ジャーナリスト)
私たちが向き合うべきは「親亡きあとの子の幸せ」なのだと思うのです。ラードナーが若いカップルに贈った名言として世界中で知られるこの言葉は、長期的にみた親世代からの「最高のエール」であると思うのは、きっと私だけではないのではないでしょうか。
天野馨南子/株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員。
専門分野は少子化対策・少子化に対する社会の諸問題。内閣府少子化対策関連有識者委員、地方自治体・法人等の少子化対策・結婚支援データ活用アドバイザー等を務める。著書に『データで読み解く「生涯独身」社会(宝島社)』など。