子育てのために“専業主夫”を選んだふたりTOKYO FUTARI

高木駿さん(39歳) 静さん(41歳) 長女(8歳) 次女(5歳)

“尊敬”の気持ちが“恋愛”へ

助産師として働く妻と、“主夫”として妻を支える夫。夫婦の形はそれぞれ違っていいと教えてくれるのが高木さん夫妻です。
 ふたりの出会いは、今から13年前。当時、駿さんは母親とカフェを経営、静さんは近所のレディースクリニックに勤務していました。静さんのクリニックの院長は、駿さんのカフェの常連。そんなつながりがふたりを結びつけます。
 駿さんが趣味でゴスペルをしていることを知った院長が、院内で開催されるイベントで駿さんに歌って欲しいと依頼。そのときピアノの伴奏を担当することとなったのが静さんでした。歌と演奏、ふたりのはじまりはささやかなステージからでした。
 本番に向けて練習を重ねる日々の中、次第に距離が縮まっていくふたり。最初は恋愛対象として意識していなかったふたりでしたが、一緒に過ごしていく時間の中でお互いの人柄に惹かれ合っていきます。
 「助産師として、命に関わる現場でひたむきに働く姿。そして、仕事への責任感。これから生まれてくる赤ちゃんや、そのお母さんのために尽くしたいと語る彼女を、素敵だなと思いました」(駿さん)
 静さんに対する“尊敬”の思いは、やがて「もっと一緒に居たい」という恋愛感情へと発展。静さんもまた駿さんの誠実さを慕い、駿さんからの告白をきっかけにお付き合いを開始します。

「男は仕事、女は家事育児」じゃなくてもいい

やがて一緒に暮らしはじめたふたり。助産師だった静さんにとって、「子ども」は身近な存在。結婚を意識するよりも先に、「いつかはふたりの間に子どもを」との思いが芽生えていきます。しかし静さんは、昼夜問わず働く毎日。駿さんは「もし結婚して子どもを持ったとして、誰が子どもの面倒をみるのだろうか」と、共働きに対して不安に近い疑問が浮かびます。
 助産師の仕事を「天職」だと思い情熱を傾ける静さんの姿に尊敬の念を抱いていた駿さん。自分はそんな彼女を支えたいと思っている。そこで、ふたりで話し合い浮かんだアイデアが、駿さんが「専業主夫」になること。だけど、周囲を見回しても「専業主夫」をしている知り合いは居ない。親世代は「男は仕事、女は家事育児」という価値観が当たり前。自分も自然と“そういうものだ”と思い育ってきた駿さんにとって、話し合って納得したこととはいえ、最初は「専業主夫」という選択肢に、抵抗を感じたそうです。
 だけど、大切なのは前例や周囲の目ではなく、自分たちがどうしたいのか。経験がないからこそ「やってみよう」と思ったふたり。そこで、静さんは駿さんに家事育児を徹底的に教え込むことにしました。それはまだ妊娠どころか、結婚する前の話。「毎日がお父さん向けマタニティトレーニング」のような日々だったと振り返る駿さん。「主夫修行」の日々の中、駿さんが静さんにプロポーズし、ふたりは夫婦となります。

抱え込まずに周りを頼って

結婚して2年後、ふたりの間に待望の長女が誕生。結婚前からの主夫修行で、駿さんの家事育児は完璧……のはずでした。しかし、実際の子育ては思うようにいかないことの連続。駿さんはだんだんと精神的に追い込まれていきました。静さんを支えるために専業主夫になったから、何でも「ひとり」でやらなければならない、と駿さんは思いすぎていたのかもしれません。
 駿さんは、このまま育児を続けていくことに限界を感じ、静さんに「助けて」と伝えました。この時のことを振り返り「育児ノイローゼのような状態でした。もっと周りを頼るべきだった」と駿さん。誰かに頼ること自体が、迷惑をかけているような気持ちになり、助けを求めたくても周りにSOSを出せなかったのだそうです。
 静さんに素直に「限界だ」と伝えたことから、少しずつ心が落ち着いていった駿さん。ふと、これまでは家事育児にかかりっきりで、自宅の外へと目が向いていなかったことに気づきます。
 「自宅で子どもと24時間一緒に居ることで、知らず知らずのうちに社会から孤立した状態になっていました。『自分たちだけで解決しないといけない』という思い込みがあったんだと思います。だけど支援してくれる場所や仕組みは、周囲や地域にたくさんあります。夫婦、ましてやひとりで抱え込む必要はなく、家族や地域コミュニティと共有していいんです」(駿さん)
 意を決し、かつての友人たちとの集まりや、近所のパパサークル、地域の子育てひろばなど、幼い我が子と一緒に様々なところへ出かけた駿さん。そこには同じように子育ての経験を持つ仲間たちがいました。悩みや知識を共有しあうだけで、どんどんと心が晴れやかになっていく。時には、ほんの少し我が子を抱っこしてもらうだけで、心が軽くなっていくこともありました。
 そんな思い悩んだ「主夫」経験から、今度は自分たちが誰かの「助け」になりたいと、駿さんは家事や育児の講演活動を開始。さらに夫婦で念願の助産院を開きます。結婚、出産、育児、どれをとっても人それぞれの形がある。自分たちだけじゃなく、周りの助けを受けながら、日々を紡いでいけばいい。「将来的には“専業主夫”という言葉もなくなって、それぞれがそれぞれのスタイルを選べる社会になれば」と駿さん。
 悩んだときにこそ、一歩踏み出してみる。そして、踏み出した後に誰かを頼れる勇気も大切。そんなことに気づかせてくれた「ふたり」でした。

ふたりのQ&A

Q
出会いは?
A
静さんの勤めるクリニックでのクリスマスコンサートで駿さんが歌うことになったこと
Q
初デートは?
A
コンサートの後にふたりだけで行った打ち上げ
Q
結婚への道のりは?
A
約2年の交際を経て、駿さんからプロポーズ
Q
家族構成は?
A
長女(8歳)、次女(5歳)との4人暮らし
Q
家計と家事の分担は?
A
朝の家事は駿さんが担当し、それ以外はケース・バイ・ケース。生計は一緒
Q
休日の過ごし方・よく行く場所は?
A
子どもたちが行きたい場所に家族で

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