自分らしい未来にむけて~ライフデザインの意味を考える~TOKYO LIFE DESIGN

多くの選択肢が広がった時代

 「令和」という新たな時代が幕を開けました。「平成」という約30年の時代を経て、社会は大きく変わり、人の価値観や行動も大きく変化しています。進学や就職、結婚、出産といった人生の節目となるイベント、いわゆるライフイベントのあり方や考え方も大きく変わり、それまでの一様なカタチから多様なカタチへと広がりをみせています。

 例えば、「働く」という側面で見ると、年功序列や終身雇用といったいわゆる日本的経営が転換期を迎え、転職が一般化しました。また、会社に属することが主だったそれまでの形だけではなく、自身での起業も増えるなど、働き方も急激に変化してきています。そして、直近では、リモートワークやパラレルキャリアなど様々な働き方やキャリア形成の手法も広がり、さらに多くの選択肢が現れています。
 仕事観においても、以前は「24時間戦えますか」と時間を気にせず働き、経済成長とともに豊かになることを大切にする価値観が主流でしたが、最近では「ワーク・ライフバランス」つまり、仕事と生活の調和を求める価値観もかなり広がっています。

 「結婚」をみても、以前とは大きく変わっています。50歳時点の未婚率の変化をみると、90年代より前は、男女ともにほぼ95%以上が一度は結婚していました。そこから一気に未婚率は上昇し、2015年では男性の23.4%、女性の14.1%に及びます(「人口統計資料集」国立社会保障・人口問題研究所)。依然として一度は結婚する人が多いですが、結婚しない生き方も増えています。言い換えれば、結婚することが「当たり前だった時代」から「選択する時代」に変化したと言えるでしょう。
 結婚するタイミングにおいても分散化が進んでいます。平均の初婚年齢は、2018年で男性が31.1歳、女性が29.4歳で、いずれも長期的に見れば平均初婚年齢は高くなってきており、いわゆる晩婚化がうかがえます(「人口動態統計」厚生労働省)。また、昔は結婚するタイミングは平均初婚年齢の前後に集中していましたが、昨今は平均初婚年齢に近いタイミングで結婚する人もいれば、20代前半で結婚する人や40代、50代で結婚する人もいます。つまり、平均化すると見えてきませんが、平均年齢から離れて結婚する人もある程度いて、いつ結婚するかも多様になっていると言えるでしょう。
 さらに、結婚のカタチも広がっています。90年代よりも前は専業主婦世帯が主流でした。しかし、90年代を境に、働く女性の割合が増え、共働き世帯が増加(「労働力調査」総務省統計局)。さらに、共働きで子どもを持たないDINKs(Double Income No Kidsの頭文字を並べたもの)というカタチや、入籍をせず事実婚というカタチを選択する人も出てきています。

(出典:「労働力調査」総務省統計局)

 このように、代表的なライフイベントを考えただけでも、平成という時代を通じての変化を感じ取ることができます。その中で見えてくるのは「一様なカタチ」から「多様なカタチ」への変化であり、人生における選択肢が増え、広がったことを意味しています。つまり、平成という時代は、生き方において、多くの選択肢が広がった時代と言えるでしょう。

ライフデザインをする意味

 このように、「多くの選択肢が広がった時代」は、個人にどんな影響をもたらすのでしょうか。最も重要なことの一つは、「自分で選択する必要が出てくる」ということです。選択肢が無ければ、そこを進むしかありませんが、選択肢があれば選択する必要がでてきます。さらに、その選択肢が広がれば、自分にとって何が重要かを自覚しておかないと選択しきれません。言い換えれば、自覚的に「選択基準を明確化」しておくことが有意義になってくるということです。さらに、どんな選択も認められる範囲が大きく広がったため、いわゆる一般的な「正解」が当てはまらず、「人と比べてどうか」といった相対的な価値基準ではなく、「自分自身にとってどうか」といった絶対的な価値基準の中で、「正しい答え」よりも「納得する答え」が大切になってきていると感じます。
 しかし、日常的にこの「選択基準」を考える機会はそれほど多くありません。何となく過ごし、気づいたら選択しないといけないタイミングが来てしまい、何となく選択してしまうものです。そうすると、自分自身の中で納得した選択にならない可能性も出てきます。だからこそ、その選択のタイミングが来る前に、ある程度自分の中で想像し、描いておくことが有効です。特に、人生の岐路となるライフイベントについて、情報を得たうえで、それぞれどんな姿になっていたいのかを描くこと。そしてそれを短期的ではなく、長期的な視点で考えてみること。さらには、「いつ」「どこで」「何を」「どのように」について、ありありと描いてみること。可能なら何かに書いてみるといいかもしれません。このように自覚的かつ具体的に人生を描き、気軽に楽しく未来を想像してみることが、今の時代においてより重要性を増していると感じています。
さらに付け加えておくと、我々が実施した「幸福」と関係の深い要素を探る調査の中で、最も関係性の深い因子が「自律選択」の因子という結果でした。つまり「自分で自分の人生を選択していること」が、幸福に最も影響するということです。この観点から考えても、自分で意志をもって選択するために、事前の準備として、人生をデザインしておくことは有意義だと思います。

 これまで、私自身も延べ約7000人以上の方々にライフデザインを考える機会として、「ライフデザイン講座」を実施してきました。その参加者の多くが具体的にライフデザインをしたことがないと言っていました。漠然とは考えたことがあるかもしれませんが、具体的に描いたことがない人が圧倒的に多くなっています。また、考えたとしても一つ先のライフイベント、つまり学生なら「働く」までというのが現状です。そこで、実際にデザインをして頂くと、「働く」と「結婚」が切り離して描けないことや、「働く」と「子ども」が切り離して描けないことなどを実感できます。例えば、会社を選ぶときに、将来、家族をもつのか、その時にどのような家族構成を想定するのかによっても会社や仕事内容を選ぶ基準が変わってきます。つまり、ライフデザインを考える場合、単一的にライフイベントを考えるよりも、複合的に連動させながら考えることがポイントであり、さらに言えば、色々なライフキャリアが人生の彩を決めるという点からみても複合的に考えることは不可欠になってくると思います。
  そして重要なこととして、ライフデザインを描いたとしても、それは固定化する必要はなく、変えてもいいということです。環境や意識が変われば、柔軟に変えていくことは大切なことであり、その時々で調整していくことも良いと思います。自身の経験とともに志向性が変わるのはよくあることでもあります。ただ、変わる前提で良いので、少し長期的な視点で自分の未来を描き、そこにたどり着くための道筋を考える。人生100年時代と言われている中、不確実で、先が見えない現実もあるからこそ、自分の人生を少し長い時間軸で想像し、逆算しながら、様々なライフイベントを描いてみる。それが納得できる人生を送るためのヒントになるのかもしれません。

落合 歩(おちあいあゆむ)/リクルートブライダル総研 所長
「恋愛・結婚調査」「結婚総合意識調査」など未婚者の動向から結婚、結婚式、夫婦関係に至るまで調査、研究、提言を行う。また、オリジナルツールの「人生ワゴン」を活用した「ライフデザイン講座」を開発・展開し、多くの若者に結婚、出産などを考えてもらう機会を提供。メディア取材、寄稿および講演多数。

良かったら、本ポータルサイトのライフデザインツール
「東京人生デザイン」も活用してください。


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